漫画|私の無知なわたしの未知 溺死していく百合
百合には付きものの単語、
「耽美」
我を忘れて事物の美しさに思いを深く巡らせること。
私の無知なわたしの未知
この作品には「耽美」より「溺死」という言葉がふさわしいのかもしれません。
周囲から何も知らされずに育った無垢な女性、嶋田湊(しまだみなと)と、
歯に衣着せぬ物言いが特徴的な職場の先輩、朝海真耶(あさみまや)。
OL二人をめぐる恋愛模様が描かれます。
嶋田湊の周囲の人間は優しく、残酷な現実を彼女に突きつけないようにしていました。
嶋田湊はそんな周囲の人々の望むがまま・言われるがままに生きてきました。
しかし、朝海真耶との出会いをきっかけに自らを巡る様々な人間関係のもつれが露わになり、彼女が無知であったがゆえに、未知であった真実に振り回されます。
まるで水に溺れ、もがき苦しむかのように。
女の子がキャッキャウフフしている百合ではなく、昼ドラのような(もはや慣用句)ドロドロした百合です。
「僕は女の子がキャッキャウフフしている百合の方が好みなんだよなあ」と思っていたのですが、よくよく考えたらユリ熊嵐を好むという点で嘘八百もいいところということに気づきました。
ごめんなさい。ドロドロな百合も大好きでした。
僕は百合ならなんでもよかったんです。
さておき、残念ながら、読んでいてハッピーな気分には(たぶん)なれません。
それでも本作を読み進めてしまうのは、嶋田湊が本質的に持つ「明るさへ向かおうとするベクトル」のようなものが物語に働いているからなのだろうか、などと考えてしまいます。
あるいは、物語に組み込まれた「人情ミステリめいた仕掛け」の行く末を見届けたいという好奇心が働いているのか。
文句を一つ言うとすれば、Kindle版だと1巻1巻が短いので、まとめて出してほしかった、というところですかね。端末で他の本を探すときに存外に面倒なので。
Kindle版まとめ買い
ともあれ、Kindle版の完結が待ち遠しいところです。
願わくは、嶋田湊が周りの優しさに溺死せず、水面の空気を得られますように。
あ、溺死系の百合といえば「魚の見る夢」もお薦めです。
こちらは、実の姉妹が様々な鬱屈した感情と屈折した愛情をもつれあわせる溺死系の……なんだ最初からドロドロ系も好きなんじゃないか(自己憤慨)。